更新日:2022年3月29日

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文学作品

 平家物語(作者不詳・鎌倉時代)

平家の盛衰を描いた一大戦記物。清盛を打倒しようと企てた俊寛たちが流されるのが、「都をば七月下旬に出でたれども、長月二十日にぞ鬼界が島には着きにける」と描写される島。喜界島か硫黄島か、意見の分かれるところだが、喜界島には、俊寛の墓があるといわれる。俊寛が、島にひとり残され悲嘆にくれる場面は歌舞伎でも有名。

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 平家女護島(近松門左衛門・江戸時代)

平家物語の鬼界が島の段をモデルにしたもの。流人の一人、丹波少将成経と島の海女の愛の物語に仕立ててある。島の娘「千鳥」が恋人を助けるために海に潜ったり、亡くなってからも清盛にとりつくなどの大活躍をみせる。

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 好色五人女巻五源五兵衛物語(井原西鶴・江戸時代)

江戸文学の代表として有名な「五人女」の結びは、薩摩の男女の恋愛物。衆道にはげんでいた若者に、鹿児島・浜の町の豪商の娘、おまんが恋をするところから始まる。おまんが男に変身したり、二人が芸人に身をやすしたりと波瀾万丈だが、最後はおまんの両親から大変な身代を譲り受けてめでたしめでたし。同じ二人をモデルにして、近松も「源五兵衛おまん薩摩歌」という脚本を書いているところから、当時、全国的に有名になった恋愛事件が薩摩にあったと思われる。

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 大石平六夢物語(江戸時代)

18世紀に書かれた近世鹿児島の代表的文学作品。明治時代、鹿児島の青年たちは、全文を暗誦するほど親しんでいたという。あらすじは、大石兵六が吉野ヶ原に出るという人をたぶらかす妖怪を退治に行くが、逆にさんざん翻弄(ほんろう)される。しかし、その妖怪が狐の仕業と知って、数千匹の狐のうちわずかに2匹を退治して帰る、という話。島津重豪時代の士気の緩みを戒めたものともいわれる。

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 孤愁の岸(杉本苑子・S37)

木曽川治水工事の総監督として苦難をしのんだ平田靱負(ゆきえ)と、理不尽な運命に耐える薩摩藩士の姿を描く小説。杉本苑子氏は、この作品で直木賞をうけた。また舞台作品としても森繁久弥の当たり役となっている。

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 恩讐の川面(豊田穣・S57)

上記と同じテーマをまとめた、人気歴史作家の作品。男らしい骨太い筆致で、歴史に翻弄された薩摩藩士たちの姿を描いている。

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 二本の銀杏(海音寺潮五郎・S36)

「村は薩摩の北端にあった。肥後に境を接していた。山また山にかこまれた小さな盆地だ。海には一番近い道を行っても八里あった」という書き出しでわかるように、作者のふるさと大口あたりが舞台となっている。天保年間の藩の逼迫(ひっぱく)した財政や、農民の苦しみなどが時代小説の大家ならではの迫力で描かれている。主人公は川内川の治水に命をかける上山源昌房。

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 南国太平記(直木三十五・S6)

俗にお由羅騒動といわれる、斉彬と久光の家督相続の争いの一部始終を小説化したもの。斉興・お由羅派と斉彬擁立派の争いに、呪詛調伏の術による暗闘も加わって霧島、栗野岳、比叡山、生駒山と日本中で秘術のかげりをつくして藩主の座をかける一大スペクタクル。お由羅の方の悪女ぶりはこれで有名になった。(文芸春秋社直木三十五作品集)中津文彦の「お由良殺人事件」(S61)は、この事件を現代に置き換えたもので江戸川乱歩賞をうけた。

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 女と刀(中村きい子・S41)

男尊女卑の世にあって、自我を貫いた女性主人公キヲの生涯を、当時の因襲や歴史的背景のなかで描いた傑作。鹿児島在住の主婦が初めて書いた小説ということで話題になったが、その実力は、田村俊子賞受賞が証明してくれた。舞台は「霧島の連山に囲まれた<黒葛原(つづらばる)>という、そのころ五十戸にも満たぬささやかな里で」、キヲは男性社会の矛盾に抵抗し、夫を「ひとふりの刀の重さほども値しない男よ」と拒絶する。薩摩の国の女ならではの壮絶な一代記。

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 天璋院篤姫(宮尾登美子・S59)

幕末、島津今和泉家の姫として生まれ、斉彬の養女になり、13代将軍家定の正室となる天璋院篤姫の生涯を作品にしたもの。腺病質の家定を助け、斉彬の意を汲んで後継問題に尽力する姫の姿が、宮尾節で描かれている。篤姫は、入台後二年で家定にも斉彬にも先立たれるが、明治維新の際には、徳川家の存続を嘆願するなどして、天璋院として人々に慕われたという。

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 薩南示現流(津本陽・S58)

必殺の殺陣としておそれられた示現流を完成させた東郷重井(じゅうい)が主人公。時は18代藩主家久のころ。鹿児島に多く自生しているユスの木を木刀にして、「肉を斬らせて骨を断つ」剣法を体得する過程が描かれる。この作者の薩摩を扱った作品は「薩摩夜叉雛」という短篇集に編まれている。

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 桜島(梅崎春生・S21)

暗号特技兵として九州各地の海軍基地を転々とし、桜島で終戦を迎えた作者の実体験を綴った小説。「鹿児島市は半ば廃墟となっていた。(中略)海の彼方に薄茶色に煙りながら、桜島岳が荒涼としてそそり立った。」という表現が、当時の自然も人も荒れ果てた状況を伝えてくれる。

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 幻化(梅崎春生・S40)

敗戦から20年たって、生きる意味を見失った主人公は、終戦を迎えた坊津へと再びやってくる。そこで幻のような花に出会う。「その花は、冥途の花のように白く垂れ下がっていた。彼はその木に近づき、指で花びらをさわってみた。花はゆらゆらと揺れた。」とある花は、鹿児島の庭先によくみられるダチュラのことである。泊浦をのぞむ高台には「人生、幻化に似たり」の碑が建てられている。

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 浮雲(林芙美子・S26)

鹿児島に縁の深い林芙美子の最後の作品。南印から引き揚げてきた若い女性、幸田ゆき子の短く激しい一生の物語。恋人に連れられて東京から鹿児島、そして屋久島へたどりつき死んでいく主人公は、戦後の混乱そのものの象徴。作者は、屋久島まで足を運び、丹念に取材した。完成まで3年を費やし、その過労で亡くなったといわれる大作。

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 雲の墓標(阿川弘之・S30)

第14期飛行科専修予備学生たちの特攻までの行動と心理を追ったもの。死を目前にした若者の横顔を、遺書や手紙の形式で構成している。出水市大野原には「雲こそわが墓標、落暉(らつき)(夕日、落日のこと)よ碑銘をかざれ」の碑が建てられている。

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 私は忘れない(有吉佐和子・S34)

女優の卵、万里子が気紛れに訪れた黒島でさまざまな体験をする物語。黒島は三島村のひとつ。その中の大里と片泊の、暮らしの違いなどが若い都会の女性の眼で生き生きと描かれる。この作品は映画化され、島民こぞって出演した。終わりに校長先生の言う「島を忘れないでいてください。日本のなかに、こんなところのあることを、一人でも都会の人が覚えていてくれたら、それがどれだけ私たちの励ましになるか分からないのです。」は、読んだ人にとっても忘れられない言葉である。

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 台所太平記(谷崎潤一郎・S38)

昭和の大文豪、谷崎の家庭がモデルと思われる千倉家に雇われた初という女をはじめ、坊津(現南さつま市)出身の女中たちのさまざまなエピソードをつづったエッセー風小説。「南蠻鴃舌(なんばんげきぜつ)と云ふ語がありますが、正にその通りで、これでは全く英語やフランス語以上です。(中略)これを一種のアクセントをつけて早口で続けて云ふのですから、分りつこありません」と、鹿児島弁に悩まされた一文もある。鹿児島の女性たちのおおらかで愉快な人柄が描かれた、楽しい作品。

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 青幻記(一色次郎・S42)

沖永良部島出身の作者が、母への想いを綴った秀作。東京の生活に疲れ、島へ帰って、土葬されていた母の骨と再会するシーンは印象的。「私は白骨を両手にのせて、目よりも高く捧げた。母と私は、こういう位置で向き合っていることが多かった。」島の日々の暮らしの様子を織り混ぜて、永遠に変わることのない母への愛が結集している。

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 ドバラダ門(山下洋輔・H2)

ジャズピアニストとして世界的に活躍している作者の祖父が、明治時代に建てられた鹿児島刑務所の設計者という史実を下書きにした空想的小説。この門の存続のために運動が展開され取り壊しを免れる筋書きは現実とほぼ同じながら、奇想天外のストーリーで楽しませてくれる。

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 南風(宮内勝典・S54)

作者の郷里である旧山川町(現指宿市)を舞台とし、少年期を回想する設定で書かれた作品。昭和30年代の町の様子が描かれている。東京でサラリーマンをしている主人公の「明」がお盆で帰省したおり、町を歩きながら少年期のさまざまな出来事を思い出す。

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 海南小記(柳田国男・T14)

我が国の民俗学の開拓者である柳田国男が、1920年に九州から沖縄への旅行をした時の記録。大分から宮崎をへて本県に入り、佐多岬、鹿児島市、指宿市、旧名瀬市(現奄美市)、加計呂麻島などに立ち寄っている。本書は、奄美や沖縄の民俗文化の重要性とともに、日本文化における南島研究の意義を初めて明らかにしたものであり、彼の晩年の大著「海上の道」につながるものである。

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 故郷忘じがたく候(司馬遼太郎・S43)

はるか秀吉の時代に朝鮮から連れて来られた陶工たちと、その末裔(まつえい)の来し方を思いやる作品。苗代川の伝統を守る旧東市来町(現日置市東市来町)美山を訪れた印象を「道が白い火山灰のせいか晒したように白く、どの樹の緑もわざとらしいほどに淡い。朝鮮の山河であった。似ているでしょう、と同乗してくれている知人もいった。」と描写する。作者と沈寿官氏との心の交流は、創作家同士ならではの深いものがある。

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 崩れ(幸田文・S52)

「おとうと」「流れる」「闘」などの名文で知られた昭和を代表する女流文学者が、晩年とりつかれた、地球の「崩れ」。弱った体をおして、富山へ、富士へ、そして本県の桜島へとやってくる。「いま噴き上げたとおぼしく、濃い灰色の煙がもくもくと空へ湧きのぼっていた。」大自然の大きさを、淡々とした筆致で描いている。

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